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21 茫然とするほど見渡す限りの

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「あれ、この木の上に白い花が咲いてる」 ”Look at the white flowers on the tree!”
「下にも赤い花があるよ」”There are red flowers down here ,too.”
「ここはまるで花の舗道だね」 ”This is like a flower pavement.”
「あの木もつぼみがもうすぐほころぶよ」 ”That tree is budding ,too.”
「明日、ここでお昼したいな」 ”I want to have lunch here.”
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「普段着の英語」ピックアップ


ヴィンセントのお父さんから電話があって桜はまだ咲いてるのって言うから、とっくに終わったよ!と言ったら、オレんちの前の桜はまだ咲いてない、つぼみだってまだだよって。気温を聞いたら最高気温が8度で、まだ冬みたいだよって言う。桜はほんの数日しか持たないんだよとヴィンセントのお父さんに言ったら、じゃあ写真送ってくれてよかったよって言った。

お父さんはもう村一番のお年寄りみたいなもので、体のあちこちが具合悪く、毎年外に出ることが少なくなってる。電話で話すとどこに行ったのって聞きたがるから、ヴィンセントはどこに行ったよって話して、私は写真をメールすることが多い。

ヴィンセントが日本に初めて来た年、来たとたん桜が満開になって、ちょうどその頃住んでたところは神田川のそばで、ヴィンセントはまだ仕事を探してる頃で、私が勤めに行ってる間時間があったから、神田川沿いによく散歩してたんだそう。たぶん初めて来たアジアで、初めて見た桜・桜・桜の川べりで、ただただ圧倒されてたんだろうなって想像できる。

ヴィンセントはよく、実家の前の通りの桜の木の話をする。ヴィンセントによると、その桜は日本のソメイヨシノより鮮やかな桃色なんだって。私が3月ヴィンセントの実家に行くといつも大雪で、飛行機が飛ばなかったり、タクシーが雪で来なかったりで、家の前の小さな桜の木には、花の代わりに雪が積もってた。

今年私とヴィンセントはもう何回花見をしたかわかんないくらい。だって私の住むところは、別に桜の名所なんかじゃなくても、ずいぶん桜が多いから。まず家の近くの川の桜。私が具合が悪くて朝病院に行ってそのまま川べりを散歩しよって、行ったら二人とも茫然とするほど、見渡す限り川沿いが桜であふれてて、二人で歩いても歩いてもまだ桜が続いてた。

おしまいには疲れて、これまで入ったことのない、小さな喫茶店に入って窓から桜を見てた。川の堤防以外何もないところにあるから、はじめ店の中は誰もいなかったのに急に他の人たちも入って来ていっぱいになった。店長の上品な女の人がカウンターに座った若い女性たち相手に、際限なくおしゃべりしはじめて、聞くともなしに聞いてたら、もう10年とか20年とかその喫茶店はあって、その間にご主人が亡くなったり、儲からないけど続けてるって。喫茶店の本棚には「婦人画報」が置いてあって、それも桜特集。

その後通勤の時、電車の鉄橋の上から見た別の川の桜がきれいで、週末地図で調べて行ったら予想以上にたくさんの桜が、下りた駅からその橋までずっと続いて、私とヴィンセントはコトバも失ってほとんど黙って歩いた。橋に着いたら隣の寺の大きな桜の下に座ってしばらく花の散るのを見てた。

母は私がまだ子供だったとき桜が満開の時亡くなった。それ以来桜を見るとまぶしさに心が痛んだものだけど、こんなにも多くの桜を見るうち、過去の残酷な記憶も、ペールピンクの向こうに遠のいている。
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by nanaoyoshino | 2008-04-29 11:55 | SimpleLife/普段着の英語
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