トムの真夜中の庭真夜中に古い時計が13時を打ってありえない時刻を告げると、外に秘密の庭が現れる。そんな「トムは真夜中の庭で」(Tom's Midnight Garden)という物語が、子供の頃本棚にあった。緑色のぼんやりした闇に包まれた庭とお屋敷を、パジャマの男の子と古風なドレスの女の子がのぞいてる絵が表紙だった。トムが秘密の庭に出会うところまでの出だしが長たらしく、途中まで読んで読み切らないままになった。 ヴィンセントは私という存在を想像したこともない頃、このお話をテレビかラジオ番組で知ったらしい。12時を打つ時計がもしも、もう1回鳴ったら知らない庭が現れるのかなって、地球の裏側の私とおんなじようにドキドキしてたんだって。 近くの公園(前回書いたとこ)のいつも座るベンチの後ろに、狭い小道があった。でもY字に接する車の多い方の道だけが印象に残って、小道がどこかへつながってるなんてずっと想像しなかった。ところがある日「この道はどこに続くんだろう」って思った。でどんどん小道を進んでったら広大な丘の上に出た。丘の上には小道があちこちにめぐらされてて、木の間に時々、都会から来て畑を耕してる人たちがいる。畑がまだなく木々に囲まれた芝生地みたいなところもたくさんある。 東京の街の中で、その地区は特別緑化地区に指定されてたのだ。そこだけ他よりたくさん木が点々とはえたところがあったけど、柵がはりめぐらされてた。まわりこんだところが少し開いてるのにヴィンセントがめざとく気づくとさっさと入ってく。公園でもないのにほぼ自然のまま、草や林が広がる丘の真ん中に立ったら、秘密の庭を訪れた気がした。何本かの大きな木の葉が風に揺れて、見たことのない大きなバッタやいろんな虫がいる。帰り道図書館で本を借りて、子供の頃読まなかった続きを読んだ。 トムは毎晩夜中の扉をそっと開け、昼間はいくら探してもみつからない庭へ出る。そこには両親が亡くなった後、親戚に引き取られた少女ハティがいる。庭はハティの王国で、自分は王女だと言う。ほんとはハティは家の中でのけもの扱いされるので庭で1人で遊んでるのだ。 時計が13回鳴ると、トムは10歳くらいの子供から20歳くらいの成人女性まで、いろんな年代のハティに会う。庭には野菜畑や花畑、木立ち、熱帯植物があるガラスの温室がある。隣の牧場には馬や牛がいて川が流れてる。そこからガチョウがやってきて庭を荒らしたりもする。ハティと秘密の庭についてかなりの部分が謎のまま、庭とハティが大好きになったトムは、庭でずっと過ごし、自分のほんとうの「時」には戻らない決意をする。 「トムは真夜中の庭で 」 フィリパ・ピアス作 岩波少年文庫
by nanaoyoshino
| 2008-11-19 23:53
| 世界の庭とごはん
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