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Lおじさんの庭とごはん<1>

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Lおじさんは毎週火曜と水曜日、グレンチェックのハンチング帽をかぶって、
Vのお父さんちにやって来る。

Lおじさんは88歳で、91歳の、Vのお父さんの弟だ。
Lおじさんは、歩いて20分のところにある老人ホームに住んでる。
Lおじさんは、近所の実の兄の家に来るのだって、きちんとしたかっこうで来る。

糊のきいたYシャツに、サスペンダーつきのズボン、
革靴にステッキというかっこうで。

VはTシャツやジーンズにもアイロンをかける。
Vのお父さんは下着のシャツにもアイロンをかける。

Lおじさんに、イギリス人はみんなそうかと聞いた。
「イギリス人だからそうってわけじゃないだろう、私のいる老人ホームにはかけない人たちだって大勢いるよ」

でも、Vの一族は、パンツと靴下以外には、アイロンをかけるのだ。

Vのお父さんは、ずっと昔、工場で監督として働いていて、仕事が大好きだったという。
退職してからずっと元気に1人暮らししてたけど、足腰が弱くなって以来、一日中、ソファに座ってテレビを見ている。いつも洗い立てでアイロンのきいたシャツで。

以前は一家で集まって近くのレストランで会食することがときどきあって、
お父さんも貫禄十分に、一家の中心人物としてふるまっていた。

ときにはみんなに食事をおごることもあった。
みんなをジョークで笑わせるのも、おもにお父さんの役目だった。
近くのレストランに行くにも、お父さんはネクタイにツイードのジャケットと、正装して行った。


Vのお父さんは、実際にはもう自分でアイロンをかけることはしない。手が震えるから。
車で20分のところに住む、Vのお姉さんが週末に来て、一週間分の掃除と洗濯をする。

Lおじさんが火曜日と水曜日に来るようになったのも、Vのお姉さんがお父さんを心配して、Lおじさんに頼んだからだ。

Lおじさんは、何十年も、バスの車掌をしていたと聞く。
<つづく>
by nanaoyoshino | 2009-09-27 00:59 | 世界の庭とごはん
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